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農薬の基礎知識

4. 農薬の残留基準はどのようにして決められるのか

(1) 残留農薬とは

 農薬は、病害虫や雑草などの防除、作物の生理機能の抑制などを目的として農作物に散布されますが、目的とした作用を発揮した後、ただちに消失するわけではありません。

 このため作物に付着した農薬が収穫された農作物に残り、これが人の口に入ったり、農薬が残っている農作物が家畜の飼料として利用され、ミルクや食肉を通して人の口に入ることも考えられます。このように農薬を使用した結果、作物などに残った農薬を「残留農薬」と言います。この残留農薬が人の健康に害を及ぼすことがないように、農薬の登録に際して安全性に関する厳重な審査が実施されています。

(2) 安全な範囲での農薬の残留基準とは

 まず、農薬の登録申請時に提出される毒性試験の結果から、その農薬を一生涯に渡って仮に毎日摂取し続けたとしても、危害を及ぼさないと見なせる体重1kg当たりの許容1日摂取量(ADI:acceptable daily intake)を求めます。

 一方、作物に散布された農薬は、作物に付着するもの、付着しきれずそのまま土壌、大気中にいくもの、水田水から河川に入るもの、また分解してしまうものがあり、農作物や水などを通じて人間が農薬を摂取することになります。したがって、各経路から摂取される農薬がADIを超えないように管理、使用する必要があり、環境大臣が定める登録保留基準は、この点を考慮して設定されています。

 こののち、農薬の有効成分(成分)ごとに食用作物に残留が許される量を決めたのが、農薬の残留基準です。大気や水からの農薬の摂取を考慮して、各作物の農薬の残留基準の総計が、この農薬のADIの8割以内となるように決められています。

 現在登録されている農薬については、ラベルに表示された使用方法を守って使用すれば、農薬が基準を超えて残留し、これによって国民の健康が脅かされる恐れはないのです。

(3) 体重1kg当たりの許容1日摂取量(ADI)の決め方

 体重1kg当たりの許容1日摂取量とは、その農薬を人が一生涯に渡って、仮に毎日摂取し続けたとしても危害を及ぼさないと見なせる量のことです。まず、ラットやマウスの動物を用いた慢性毒性試験などの長期毒性試験の結果の中から最も低濃度でも影響の見られる試験を選び、その試験で影響のみられなかった投与量(無毒性量/NOAEL:no-observed adverse effect level(mg/kg/日))を求めます。この値は動物試験による結果であることと人においては個人差があることを考慮して、不確実係数(通常1/100[1/(10[種間差]×10[個人差])])を乗じ人に影響のない量を求めます。この結果がADIとなります(図7)。

 このADIは、体重1kg当たりの許容1日摂取量であり、これに日本人の平均体重(53.3kg)を乗じることにより、日本人1人当たりの摂取が許容される量となります(図8)。この値が農薬の残留基準を設定する際の基となります。

図 7. 動物を用いた長期毒性試験における反応出現率と農薬投与量の関係
図7. 動物を用いた長期毒性試験における反応出現率と農薬投与量の関係

図 8. 許容1日摂取量(ADI)の算出の流れ図
図8. 許容1日摂取量(ADI)の算出の流れ図

(4) 農薬の残留基準の決め方

 通常、作物の表面に散布された農薬は、大気中への蒸発、風雨による洗い流し、光および水との反応による分解で、散布日から時間が経つにつれて減少していきますが、収穫時に農薬が残留することがあります。

 農薬の残留に関する登録保留基準については、厚生労働大臣が食品衛生法に基づき定める残留農薬基準を用いることとしています。平成15年7月1日から内閣府に食品安全委員会が設置されたことから、残留農薬基準の設定に必要な毒性評価については、食品安全委員会の農薬専門調査会で行われることとなりました。

 水質汚濁に係る登録保留基準については、従来同様、環境大臣が定めることとしています。

ア 作物への残留基準の決め方
 農薬の作物への残留量は、登録申請時に提出される作物残留試験から得た残留量を基に基準値が設定されます。その場合気象条件など種々の外的要因により変動する可能性があることから、基準値は、試験での残留量に比べて、ある程度の安全率を見込んで設定され、また外国基準及び国際基準等も考慮して設定されます。

 例として大豆、小豆類及びかんしょ等に使用される農薬について説明します(表4)。一定の使用方法を前提に行った試験による農作物への残留量が、大豆で0.97ppm、小豆類で0.87ppm、かんしょで0.47ppmの場合、これらの結果を基にかなり安全をみて各残留値を大豆で2ppm、小豆類で2ppm、かんしょで1ppmと以下いちごまでとりあえず仮置きします。次にこの値と各農作物を国民が平均的に食べる量(厚生労働省の国民栄養調査によるフードファクター)から農薬の推定摂取量を計算します。各作物の推定摂取量の合計は0.2378mgとなり、この許容摂取量4.4184mgの8割以内であるため、この場合、各作物の基準値は、大豆で2ppm、小豆類で2ppm、かんしょで1ppmに設定されます。

作物群 使用方法 最大作物残留量(ppm) 基準値(ppm) フードファクター(g) 推定摂取量(mg) 日本人の許容摂取量(ADI×53.3)
大豆 散布 0.97 2 56.1 0.1122  
小豆類 散布 0.87 2 1.4 0.0028
かんしょ 散布 0.47 1 15.7 0.0157
てんさい 散布 0.31 1 4.5 0.0045
キャベツ 散布 0.82 2 22.8 0.0456
たまねぎ 散布 0.33 1 30.3 0.0303
にんじん 散布 0.46 1 24.6 0.0246
未成熟いんげん 散布 0.38 1 1.9 0.0019
えだまめ 散布 0.16 0.5 0.1 0.00005
いちご 散布 0.15 0.5 0.3 0.00015
合計         0.2378 4.4184mg/人/日

推定摂取量(mg:各適用作物[基準値(ppm)×フードファクター(kg)]の合計)≦ADI(mg/kg)×53.3(kg)

イ 水質汚濁に係る農薬登録保留基準の決め方
 水田で使用される農薬では、作物に散布された農薬が水面に落下するだけでなく、直接水田に施用されるものもあります。使用された農薬は水田の土壌に付着したり、水中で分解したりしますが、排水路などに流出し、河川を経由して飲料水として摂取されることも考えられます。

 そこで、日本人1人当たりの1日の飲水量は2リットルとし、飲料水からの日本人1人当たりの摂取が許容される農薬の量をADIの10%の範囲までとなるように、水質汚濁に係る農薬登録保留基準の値を設定します。

 水質汚濁性試験成績から計算した、水質汚濁に係る環境中予測濃度(水濁PEC)が基準値を越えていなければその農薬は登録されます。

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