農薬検査部について
農薬の検査技術に関する調査研究報告
平成24年度
① 経済協力開発機構(OECD)の農薬登録に係る試験成績の作成に関する指針等の国際的枠組みの策定及び国内導入に当たり必要な課題
農薬の河川一次生産者(水生植物)に対する環境影響評価手法の高度化の検討
- 水生シダサンショウモ(栄養繁殖個体)を試験生物とした生長阻害試験法の検討(PDF 346KB)
水生シダであるサンショウモ(Salvinia natans)の栄養繁殖個体を試験生物とした生長阻害試験法を検討した。SIS(Swedish standard)培地を用い、日長以外の環境条件をLemna属ウキクサに対する生長阻害試験の試験指針(OECD TG221)に従いサンショウモを培養したところ、良好な生長が認められた。生長阻害試験における曝露開始時の個体を、栄養繁殖個体の先端の浮葉2-4枚を残し切断し3日間培養したものと定め、7日間(ウキクサ生長阻害試験の曝露期間)培養した結果、乾燥重量および水中葉長でそれぞれ約5倍および約9倍の生長が認められた。除草剤(オキサジアゾン、シメトリンおよびプレチラクロール)を被験物質として生長阻害試験を行った結果、水中葉長から算出した生長速度を基に算出した半数生長阻害濃度は、オキサジアゾン、シメトリンおよびプレチラクロールでそれぞれ5.24、14.6および7.46 μg/Lであった。試験を実施した範囲ではサンショウモはLemna属ウキクサの一種であるアオウキクサ(L.aoukikusa)と同程度の感受性を示した。OECD TG221に準じた試験における試験生物として、サンショウモが有用であることが示唆された。
② その他の研究課題
農薬残留基準値の設定に関する欧州連合の法制度
- 農薬残留基準値の設定に関する欧州連合の法制度(PDF 1,790KB)
農薬市場の国際化および農薬メーカーの海外進出に伴い、農薬に関する規制の国際調和が求められている。中でも、農薬の販売・使用の主要な国・地域である米国や欧州の規制制度は世界的な影響力があるため、我が国関係者もその動向を注視しているところである。
この状況を踏まえ、欧州連合(以下「EU」という。)における農薬残留基準値(以下「MRL」という。)に関する制度を調査したので、以下、「動植物由来の食品及び飼料中の農薬の残留基準及び理事会指令91/414/EECの改正に関する2005年2月23日付け欧州議会及び欧州理事会規則(EC)396/2005」(以下「規則396/2005」という。)を中心に本制度を概観した。
国際社会における化学物質管理の潮流について
--農薬管理の視点からの分析と現状の理解--
- 国際社会における化学物質管理の潮流について(PDF 166KB)
今日国際社会では、化学物質の適正管理および安全使用に関する様々な活動が多様なアクターにより展開されており、特に国連機関を中心に種々のフォーラムや国際条約が成立している。このような状況の中で我が国の農薬管理行政の策定・遂行に際しては、先進諸国やOECDにおける農薬管理に関する施策の動向のみならず、国際社会における化学物質管理全般の動向にも常に注意を払うことが必須となっている。本稿は、これらの取り組みについて農薬管理の視点から分析するとともに今後の農薬管理の方向性について論考を試みたものである。
農薬を管理する法制度は1940年代から整備され始めたが、本格的な化学物質の安全管理が始まったのは1970年代からであり、先進国ではこの時期(1970年代)に農薬を含む化学物質の管理制度が立ち上がった。一方、途上国では法制度の整備が遅れ実際の管理も不十分であった。そのため、FAOは、「農薬の流通および使用に関する国際行動規範」を1985年に採択し途上国に農薬管理の拠り所を提供した。その後、地球環境問題に世界の注目が集まり、1992年にはブラジル・リオデジャネイロで「地球/環境サミット(UNCED)」が当時のほぼ全ての国連加盟国(172ヵ国)と30余りの非政府機関の参加を得て開催された。この会議で採択された行動計画「アジェンダ21」は、化学物質全般の適正管理を目指しており、現在の国際社会における農薬を含む化学物質管理に関する潮流の源となった。この潮流の下、1998年に有害化学物質の貿易を管理するロッテルダム条約が、2001年にはPCBなどの残留性有機汚染物質の廃絶・削減を進めるストックホルム条約が採択された。さらに2006年には、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)の合意へと発展しており、国際社会を形成する各国では、SAICMで掲げた目標の達成が喫緊の課題となっている。今後の農薬管理の進展方向の決定には、上述した文脈を踏まえた検討が求められている。